奥山玲子さんの世界

 一見、メルヘンの挿絵のようなデリケートな線で描かれた美しい幻想の世界。しかし、目を凝らすと女性の体内には何やら恐ろしげな毒を孕んでおり、ドキリとさせられます。
 作者の奥山さんは、あの宮崎駿監督と東映動画時代、机を並べて仕事をしてきた日本のアニメーション界の草分け的な方。集団で制作するアニメという、色々と制約の多い仕事の傍ら、自身を解放する手立てとして、ペン画によるイラストをコッコツ描いていたとのこと。
 その後十年程前からは、金属特有の堅く抵抗感のある素材に惹かれ、銅版画による愛らしい小品を生み出しているそうです。
 度々登場するニーナとは、終戦後ロシアより、恋人だった日本の兵士を追ってやって来た女性のこと。奥山さんが少女時代に見た焼け跡の仙台の街や、ニーナという女性のことなど、絵を描くことによって、そうした過去の記憶の断片が無意識ながらもイメージに大きな影響を与えているのかもしれません。
 静止した版画という世界にもかかわらす、どこか物語の一シーンを見ているような動きが感じられるのは、さすがアニメーターの描く絵だなと感じました。

  
Artist奥山玲子(Reiko Okuyama)
Profile宮城県生まれ 東北大学教育学部卒業
1958~76年 東映動画K.Kにて、劇場用アニメーションの主要スタッフとして活躍
1985~現在 東京デザイナー学院アニメーション科講師 フリーとして91年「注文の多い料理店」、03年「冬の日」に銅版画アニメーションで参加 91年銀座シロタ画廊、銀座アートサロン・アクロマなどで二人展、個展等多数
MEMO

奥村玲子さんは、NHK連続テレビ小説 2019年度前期「なつぞら」の主人公「奥原なつ」のモデルとなった方です。ドラマのアニメーション時代考証を担当する小田部羊一は、亡妻・奥山玲子(1936年10月26日 - 2007年5月6日/宮城県仙台市出身)がヒントになったと語っています。「なつぞら」はNHK朝ドラの記念すべき第100作目で、そのドラマは、戦争で両親を失った主人公の少女(広瀬すず)が、北海道の大自然と開拓者精神溢れた優しい大人たちに囲まれて成長していく物語です。そして日本アニメの草創期を舞台にまっすぐに生きた夢と冒険、愛と感動のドラマです。

奥村玲子-ウィキペディア

文責:瀬川智貴
(※注)内容は取材当時のものです。

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